訪問診療とは?仕事内容や同行看護師の役割、往診・訪問看護との違いまで解説

施設・機関

最終更新日:2025/08/18

訪問診療とは?仕事内容や同行看護師の役割、往診・訪問看護との違いまで解説

「在宅医療という言葉はよく聞くけれど、訪問診療って具体的に何をするの?」 「クリニックに所属する看護師が、医師と一緒に患者さんのお宅を訪問するって、どんな役割なんだろう?」 「訪問看護とは何が違うの?」 地域医療への関心が高まる中、このような疑問を持つ看護師・医療従事者の方は増えているのではないでしょうか。特に、病院での勤務経験を活かしながら、より患者さんの生活に密着した働き方を模索している方にとって、「訪問診療」は非常に興味深い選択肢の一つです。 この記事では、訪問診療の基本的な定義から、混同されがちな「往診」や「訪問看護」との明確な違い、そして訪問診療チームの一員、特に「同行看護師」の具体的な仕事内容、1日の流れ、働く魅力や大変な点までを網羅的に解説していきます。 この記事を読み終える頃には、訪問診療というフィールドの全体像がクリアになり、そこで働く自身の姿を具体的にイメージできるようになっているはずです。

目次

  • そもそも訪問診療とは?

  • 訪問診療チームの仕事内容

  • 訪問診療 同行看護師の主な1日の流れ

  • 訪問診療で働くメリット・デメリット

  • 訪問診療で働くために。スキル・給与・未経験からの道筋

  • まとめ

そもそも訪問診療とは?

まずは、訪問診療がどのような医療サービスなのか、その本質から理解を深めていきましょう。

在宅医療におけるその立ち位置を知ることで、役割の重要性が見えてきます。

訪問診療の役割と目的「通院が困難な方の“かかりつけ医”」

訪問診療とは、病気や高齢、障がいなどの理由で、ご自身で病院やクリニックに通うことが困難になった患者さんのご自宅や入居されている施設(老人ホームなど)へ、医師が「計画的かつ定期的」に訪問し、診療や治療、薬の処方、療養上の相談などを行う医療サービスです。

その目的は、単に病気を治療するだけではありません。

患者さんの全身状態を継続的に把握・管理することで、病状の悪化を未然に防ぎ、入院のリスクを減らすことにあります。

まさに、「持ち運び式のかかりつけ医」として、患者さんとそのご家族が住み慣れた場所で安心して療養生活を続けられるよう、医療面から総合的に支えるのが訪問診療の大きな役割なのです。

この訪問診療のニーズは、超高齢社会の進展と、国が推進する「地域包括ケアシステム」を背景に急速に高まっています。

治療の場が病院から地域・在宅へとシフトする中で、在宅医療を専門とする訪問診療クリニックは、地域医療の中核を担う極めて重要な存在となっています。

「往診」との決定的な違い

「訪問診療」と「往診」は、どちらも医師が患者さんの自宅へ訪問する医療ですが、この二つには明確な違いがあり、正しく理解しておくことが非常に重要です。

最大の違いは、「計画性」があるかどうかです。

訪問診療は、あらかじめ立てた診療計画に基づいて、「毎週火曜日の午後」「隔週の金曜日の午前」というように、定期的に訪問する「計画的」な医療です。

病状が安定していても継続的に訪問し、健康管理や病気の予防を行います。

これは、普段から通っているかかりつけ医の予約診察が、自宅で行われるイメージです。

一方、往診は、普段は通院している患者さんが、急な発熱や転倒、容態の悪化など、予期せぬ事態に見舞われた際に、患者さんやご家族からの要請を受けて緊急的に訪問する「突発的」な医療です。

あくまで臨時・緊急の対応であり、一度きりの訪問で終わることがほとんどです。

この二つを混同すると、「急に具合が悪くなったから、訪問診療の先生に来てもらおう」と考えてしまいがちですが、それは往診の役割です。

訪問診療は、このような事態を未然に防ぐための、継続的な医療であると覚えておきましょう。

分かっているようで難しい「訪問看護」との違い

在宅医療の現場では、「訪問診療」と「訪問看護」は非常に密接な関係にありますが、その役割は明確に異なります。

この違いを理解することで、チーム医療におけるそれぞれの専門性が見えてきます。

主体の違い:「医師」か「看護師」か

最も分かりやすい違いは、サービスの主体となる職種です。

訪問診療は、医師が主体となって行われる「診療」行為です。一方、訪問看護は、看護師が主体となって、医師の指示書に基づき行われる「療養上のケア」です。

役割の違い:「診察・診断」か「ケアの実践」か

主体の違いは、具体的な役割の違いに繋がります。

訪問診療では、医師が診察を行い、病状を診断し、必要な検査や治療方針を決定し、薬を処方するといった「医学的判断」が中心となります。

対して訪問看護では、その医師の指示に基づき、日々のバイタルチェックや褥瘡の処置、カテーテルの管理といった「医療的ケアの実践」や、入浴介助や食事の援助といった「日常生活の支援」、家族への介護指導などが中心となります。

連携の関係性:「設計図」と「施工」の関係

両者の関係性は、家づくりに例えると分かりやすいかもしれません。

訪問診療の医師が、患者さんの状態に合わせて治療方針やケアプランという「設計図」を描きます。

そして、訪問看護師がその設計図を基に、日々のケアという「施工」を丁寧に行い、家の状態(患者さんの状態)に変化があれば、すぐに設計士(医師)に報告する。

このように、訪問診療と訪問看護は、どちらが欠けても在宅療養という家は成り立たない、車の両輪のようなパートナー関係なのです。

看護・医療業界でご就業中の皆様今の年収、 今の働き方に満足してますか?あなたの理想の職場を
転職のプロが実現

メディともで転職の相談をする

訪問診療チームの仕事内容

訪問診療は、決して医師一人で完結するものではありません。

多様な専門職がそれぞれの役割を果たす、まさにチーム医療の結晶です。

ここでは、各職種の仕事内容を、特に同行看護師の役割に焦点を当てて解説します。

医師

訪問診療クリニックの医師は、診療に関する全ての責任を負う、チームの司令塔です。

患者さんの診察、診断、治療方針の決定、薬の処方といった医療行為はもちろんのこと、介護保険の主治医意見書や診断書といった各種書類の作成、そして看護師やケアマネジャーといった他職種への指示など、その役割は多岐にわたります。

高い医学的知識に加え、患者さんやご家族の想いを汲み取るコミュニケーション能力、チームをまとめるリーダーシップが求められます。

同行看護師

訪問診療クリニックで働く看護師は、多くの場合、医師の訪問に同行するため「同行看護師」と呼ばれます。

その役割は単なる医師の補助にとどまらず、多岐にわたる重要な任務を担います。

訪問前の準備

1日の業務は、訪問前の周到な準備から始まります。

その日訪問する患者さん一人ひとりの電子カルテを読み込み、前回の訪問からの様子の変化や検査データ、ご家族からの申し送り事項などを頭に入れます。

そして、それぞれの患者さんに必要な医療機器(ポータブルエコー、心電計など)や医薬品、採血や処置に使う物品をピックアップし、間違いのないよう訪問バッグにセットします。

この準備が、訪問先でのスムーズな診療を左右します。

訪問中のサポート

準備が整うと、医師とペアで訪問車に乗り込み、患者宅へ向かいます(多くの場合、看護師が車の運転も担当します)。

患者宅に到着したら、まず患者さんやご家族に挨拶をし、バイタルサイン測定や全身状態の観察を手際よく行い、その情報を医師に簡潔に報告します。

これが、医師が診察を始める上での重要な導入となります。

医師の診察中は、その指示に従って採血や予防接種、点滴の準備、褥瘡処置などの診療補助を行います。

しかし、それと同時に極めて重要なのが、患者さんやご家族とのコミュニケーションです。

医師には直接言いにくい療養生活での小さな悩みや不安、介護の困りごとなどを、看護師ならではの柔らかな視点で引き出します。

この何気ない会話から得られる情報が、後の多職種連携において非常に貴重なものとなるのです。

訪問後の業務

全ての訪問を終えてクリニックに戻ると、息つく間もなく午後の業務が始まります。

まずは、医師の指示のもと、その日の診療内容を電子カルテに記録します(医師の口述を看護師が代行入力するクリニックも多いです)。

その後、使用した医療機器の洗浄や片付け、医薬品の補充を行います。

そして、最も重要なのが、関係各所との連携です。

訪問中に得た患者さんの状態変化やご家族からの相談内容などを整理し、担当のケアマネジャーや訪問看護ステーション、地域の薬局などに電話やFAXで報告・連絡・相談(報連相)を行います。

この情報共有が、切れ目のない在宅療を支える生命線となります。

医療事務(クラーク)

医療事務(クラーク)は、クリニック内でのバックオフィス業務全般を担い、訪問チームを後方から支える重要な存在です。

日々の訪問スケジュールの調整・管理や、新規患者さんの受け入れに関する連絡、絶え間なくかかってくる電話への応対など、業務は多岐にわたります。

中でも、訪問診療のレセプト(診療報酬明細書)作成は非常に専門性が高く、クリニックの経営を支える上で欠かせないスキルです。

ドライバー(メディカルサポーター)

都市部を中心に、専任のドライバーを配置するクリニックも増えています。

彼らは単に運転するだけでなく、安全かつ効率的な訪問ルートを計画し、駐車場所の確保に奔走します。

ドライバーがいることで、医師と看護師は移動中の車内でカルテの最終確認をしたり、関係各所へ連携の電話を入れたりと、時間を有効に使うことができます。

まさに、訪問診療の質と効率を高める、縁の下の力持ちと言えるでしょう。

訪問診療 同行看護師の主な1日の流れ

では、同行看護師は実際にどのようなタイムスケジュールで動いているのでしょうか。

その多忙で充実した1日を追ってみましょう。

  • 8:30【出勤・朝礼・準備】
    出勤後、朝礼でその日の訪問スケジュールと患者さんの情報を医師や他のスタッフと最終確認します。「〇〇さんは昨日から食欲がないそうです」「△△さん宅は本日、息子さんがいらっしゃいます」といった情報を共有し、チームで意識を統一。その後、医薬品や医療機器を訪問車に間違いなく積み込みます。

  • 9:00【午前の訪問へ出発】
    医師と看護師(場合によってはドライバーも)が訪問車に乗り込み、午前の訪問へ出発。1日に訪問する件数はクリニックによりますが、多いところで10件以上になることもあります。

  • 9:30~12:30【午前の訪問】
    計画されたルートに沿って、次々と患者宅を訪問。1件あたりの滞在時間は、患者さんの状態にもよりますが15分~30分程度。次の訪問先への移動時間の方が長いこともしばしばです。限られた時間の中で、いかに質の高い医療とコミュニケーションを提供できるか、チームワークが試されます。

  • 12:30~13:30【昼休憩】
    多くの場合は一度クリニックに戻り、昼食休憩をとります。午後の訪問の準備をしたり、午前中の訪問で気になった患者さんの情報をスタッフ間で共有したりする、貴重な時間です。

  • 13:30~16:30【午後の訪問】
    午後の訪問へ出発。定期訪問に加え、新規患者さんの受け入れのための初回訪問や、急な往診依頼に対応することもあります。スケジュール通りに進まないことも日常茶飯事です。

  • 16:30【クリニックへ帰院】
    全ての訪問を終えてクリニックに戻ると、ここからが看護師の腕の見せ所。膨大な量の情報を整理し、事務作業を開始します。

  • 17:00~【記録・連携・カンファレンス】
    カルテの記録を仕上げ、電話やFAXで関係各所への報告・連絡を済ませます。定期的に、ケアマネジャーや訪問看護師を交えた多職種カンファレンスを開き、患者さんのケア方針について議論することもあります。

  • 18:00【業務終了】
    翌日の準備を終え、ようやく退勤です。記録や連携業務が終わらない場合は、残業になることもあります。

看護・医療業界でご就業中の皆様今の年収、 今の働き方に満足してますか?あなたの理想の職場を
転職のプロが実現

メディともで転職の相談をする

訪問診療で働くメリット・デメリット

これまでの内容を踏まえ、訪問診療の同行看護師として働くことの魅力と、覚悟しておくべき点について、看護師の視点から整理します。

看護師が感じる4つの大きなメリット(やりがい)

医師の思考プロセスを間近で学べる

これは訪問診療の同行看護師ならではの最大のメリットです。

常に医師とペアで行動するため、患者さんの訴えや所見から、どのように病態をアセスメントし、診断を下し、治療方針を決定していくのか、その思考の根拠をすぐ側で学ぶことができます。

医学的な知識やアセスメント能力を飛躍的に向上させたいと考える看護師にとって、これ以上ない学習環境と言えるでしょう。

患者の「生活」に医療を届けるやりがい

病院という非日常的な空間ではなく、患者さんが暮らす「生活の場」に医療を持ち込むことで、その人らしい暮らしを根底から支えているという強い実感を得られます。

病院のベッドサイドでは見えなかった患者さんの素顔や人柄、大切にしている価値観に触れることで、より人間味あふれる看護を実践できます。

在宅医療チームのハブになれる

同行看護師は、医師と、訪問看護師やケアマネジャーといった他職種との間に立ち、情報を正確に伝達・調整する「ハブ(中継拠点)」としての重要な役割を担います。

自分の働きかけ一つで、チーム全体の動きがスムーズになり、患者さんへのケアの質が向上することを実感できた時、チーム医療を動かしているという大きな手応えを感じられます。

ワークライフバランスの確保

訪問診療クリニックは、夜勤がなく、日曜日・祝日を休診日としているところがほとんどです。

そのため、規則正しい生活を送りやすく、プライベートとの両立が可能です。

オンコール体制はありますが、ファーストコール(最初の電話)は医師が受ける体制のクリニックが多く、訪問看護に比べると、看護師が夜間や休日に緊急出動する頻度は低い傾向にあります。

知っておきたい3つのデメリット(大変な点)

看護師独自のケア提供が限定的

業務の中心は、あくまで医師の診療補助です。

そのため、訪問看護のように「自分のアセスメントに基づいてケアを計画し、実践する」といった、看護師独自の裁量で動ける場面は少なくなります。

「自分の看護」を追求し、主体的にケアを提供したいという志向の方には、物足りなさを感じる可能性があります。

医師との人間関係が重要

一日の大半を、医師と二人きりで、車内という密室で過ごすことになります。

そのため、ペアを組む医師との相性や人間関係が、日々の業務のしやすさや精神的な快適さを大きく左右します。

チームの一員として、良好なパートナーシップを築くための協調性やコミュニケーション能力が不可欠です。

身体的な負担と環境への適応力

訪問診療は、移動が多い仕事です。

夏の暑い日も、冬の寒い日も、天候に関わらず外出しなければなりません。

また、エレベーターのない団地の5階まで重い医療機器を運んだり、物が溢れて狭い家の中で清潔を保ちながら処置を行ったりと、想定外の状況に対応する身体的なタフさと、どんな環境にも適応できる柔軟性が求められます。

訪問診療で働くために。スキル・給与・未経験からの道筋

最後に、訪問診療の同行看護師として働くために必要なスキルや給与の目安、そして未経験からの挑戦について解説します。

求められる経験とスキル

まず、看護師免許普通自動車運転免許は必須です。

特に運転免許は、日常的に運転するため、ペーパードライバーでは難しい場合がほとんどです。

臨床経験としては、一般的に3年以上の病院勤務経験が望ましいとされます。

特に、内科系や循環器科、救急外来など、幅広い疾患に対応できる経験や、急変時の対応経験があると高く評価されます。基本的な採血や点滴のスキルも必須です。

スキル面では、医師の言葉や患者さんの状況を正確に理解し、他職種に分かりやすく伝える高いコミュニケーション能力、そして電子カルテ入力などの基本的なPCスキルが求められます。

給与や年収の目安

給与は地域やクリニックの規模によって異なりますが、常勤の同行看護師の年収は400万円~550万円程度が一つの目安となります。

夜勤がないため、病院の夜勤ありの給与と比較すると下がる可能性はありますが、日勤のみの仕事としては比較的水準は高いと言えます。

オンコール手当などが別途支給されるクリニックもあります。

未経験でも転職できる?

「訪問診療の経験がないと、転職は難しいのでは?」と考えるかもしれませんが、心配は無用です。

訪問診療の経験がなくても、病院での臨床経験があれば、転職は十分に可能です。

むしろ、在宅医療の現場は、病院からの転職者が大半を占めています。

選考で重視されるのは、経験の有無よりも、在宅医療に対する興味や熱意、そして何よりもチームの一員として協調性を持って動けるかという人柄です。

入職後に、先輩看護師との同行期間や研修制度がきちんと設けられているクリニックを選べば、未経験からでも安心して業務を覚えていくことができます。

看護・医療業界でご就業中の皆様今の年収、 今の働き方に満足してますか?あなたの理想の職場を
転職のプロが実現

メディともで転職の相談をする

まとめ

今回は、「訪問診療」というフィールドについて、その役割から仕事内容、働く魅力までを深く掘り下げてきました。

訪問診療は、通院が困難になった患者さんのもとへ「計画的・定期的」に医療を届ける、在宅医療の中核を担うサービスです。

そこで働く同行看護師は、医師の右腕として診療をサポートするだけでなく、多職種と連携するチームのハブとして、極めて重要な役割を果たします。

医師の思考を間近で学び、医学的知識を深められるという大きな魅力がある一方、看護師としての独自のケア提供が限定的であるという特徴も理解しておく必要があります。

「病気だけでなく、その人の生活全体を医療の力で支えたい」「医師と二人三脚で、地域医療に深く貢献したい」。

もしあなたがそう考えるなら、訪問診療は、大きなやりがいと自身の成長を実感できる、非常に魅力的なキャリアの選択肢となるでしょう。

関連するタグ: